黒い雨裁判の基本的視点と内部被曝

 


 

 

 

 

矢ヶ崎克馬;琉球大学名誉教授

 


 

基本的視点

 

 被爆者306人が034月から17地裁で起こした原爆症認定集団訴訟は19回の判決において連続して勝訴した。判決は内部被曝を明言的に認定する判決をはじめ、内部被曝を事実上の前提条件とし、「国の規準を機械的に適用することは誤り」とするものであった。にも拘わらず、その後に見直された新基準では国は内部被曝を認めていない。

 

(1)黒い雨訴訟は被爆者の定義、被爆者援護法1条3項の「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」が争点となる。原爆症の健康被害条件とは明瞭に異なり、住民が病気になったかならなかったかは問題とされない。放射能環境にあった証拠を示すことが重要である。

 

(2)黒い雨は水平に広がる原子雲が起源である。「なぜ水平方向に広がる原子雲は放射能を帯びているか」ということを科学の論理で証明することが必要である(長崎被爆体験者訴訟、法廷提出意見書)。火球にすべて存在した放射能が水平に広がる原子雲に大量に移行する。現実は住民の体験や残留放射能測定により、放射能環境は水平原子雲の半径15km程度と一致している。雨として落下する放射能の塊は風で移動している。

 

(3)黒い雨による深刻な被曝は2種類あり、黒い雨に打たれたことにより放射性物質が体や衣服に黒いシミとして残り、近接被曝あるいは付着被曝(外部被曝)をもたらした。さらに、より深刻な被曝は放射能の埃を付けた食べ物を食したり、呼吸によって吸い込んだりする内部被曝である。これらが「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情」を提供する。

 

(4)国際放射線防護委員会の線量評価体系は矛盾に満ちたものであり、吸収線量の定義など、被曝の現実性を一切捨象するものである。放射線の基本作用「電離」に触れず、低線量域のペトカウ効果(注1)などを無視する。健康被害の目安となる電離の密集性、健康被害がなぜ生じるかを議論しない。チェルノブイリ被害の評価に見られるように、現実の被害を切り捨てる。ABCC・放影研のデータを基本としており、現実のリスクより一桁程度過小評価している。実効線量は物理的にあり得ないものであり、照射線量と吸収線量をごちゃまぜに使う、など科学の基本に悖るものであり、これらによる健康被害の過小評価を許してはならない。 

 

内部被曝の特徴

 

 放射性降下物が体内に入った時の被曝は発射されたすべてのアルファ線、ベータ線、ガンマ線が被曝を与える。アルファ線、ベータ線は飛程が短く危険度が高い。ガンマ線被曝の場合(外部被曝)と比較して放射性微粒子の近辺区域に集中した電離を行い、異常DNAを生じさせやすく健康破壊は著しい。

 

 

(1)ぺトカウ効果・・・

「長時間の低線量放射線被曝の方が短時間の高線量放射線被曝に比べ、はるかに生体組織を破壊する」