内部被ばくと黒い雨


 

 

 

矢ヶ崎克馬;琉球大学名誉教授


 

■ 内部被ばく
 内部被ばくは空気中の放射性原子を呼吸して吸い込んだり、食べ物や水に混じっている放射性原子を飲食することによって体内に入れてしまい、体内の放射性原子から放射線が発射されて被ばくすることをいいます。

 

■ 原爆の放射能の埃ー放射性微粒子
 原爆で作り出された放射性原子はセシウム137、ストロンチウム90、その他たくさんの原子の種類があります。原爆の材料となったウラン235やプルトニウム239で核分裂しなかった部分も放射性原子です。いったん超高温になってから冷えていく過程で、放射性原子は他の原子と混じって「放射性微粒子」となります。
放射性微粒子は水に溶ける(可溶性)微粒子と水に溶けない(不溶性)微粒子があります。不溶性微粒子は体内に入って1カ所にとどまります。周囲の非常に狭い範囲にDDNAを損傷するなど、多大な被害を与えます。これが発がんの元になります。たとえば黒い雨を経験した女性の方の肺がん組織内でウランがアルファ線を放出している画像が確認されました。水溶性の場合は血液やリンパ液に溶けて原子が1個1個バラバラの状態になって体中を回ります。これもあらゆる病気を作り出します。

 

■ 放射線の危害: 体の組織をミクロに切断します
 放射線の恐ろしい作用は「電離」と呼ばれるものです。放射線は原子に当たります。電離は原子の中の電子が吹き飛ばされることです。原子と原子の結びつきが破壊されて体の機能を果たしている組織がミクロに切れて働かなくなることにつながります。細胞の核にあるDNA,ミトコンドリアのDNA、体内にあふれている水分子などが切断されます。その結果、がん、脳梗塞、アルツハイマー病、パーキンソン病、老化、白内障、ドライアイ、花粉症、口内炎、心筋梗塞、心不全、肺気腫、気管支炎、逆流性食道炎、胃潰瘍、炎症性腸疾患、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、肝切除、腎不全、糸球体腎炎、閉そく性動脈硬化症、関節リウマチ、膠原病、動脈硬化症、放射性倦怠症(原爆ぶらぶら病)などが発症・促進されるといわれます。これらすべてが黒い雨降雨地域の方が経験された体調不良ではなかったでしょうか?

 

図1 放射線が身体に当たるということは、体の組織を構成している原子に当たることです。
原子と原子は電子がペアを作るこによってくっ付いています。
放射線は電子を吹き飛ばしますこれを電離と言います)。ペアを組でいる電子が吹き飛ばされますので、ペアが破壊され、原子と原子の結びつきが壊され、組織が分断されます(これを分子切断と言っています)。

 

■ 内部被ばくの危険な実態を政府は無視している
 外部被ばくは遠いところから飛来できるガンマ線だけと考えてよいのです。それに対し内部被ばくは飛程(飛ぶ距離)が短いアルファ線、ベータ線も大きな被害を与えます。ガンマ線も含め全ての放射線が被ばくさせます。ICRP(国際放射線防護委員会)の吸収線量(被ばく量を図る物理量:単位質量あたりの放射線のエネルギー)の計算単位は臓器ごとになっていますが、内部被ばくでの電離の集中性などを無視する方法となっています。例えばセシウム137が入った不溶性の放射性微粒子が肺の中の肺胞に定着したとします。その微粒子からベータ線が発射され、毎秒1本のベータ線(1ベクレル)を出すとします。セシウム137の場合ベータ線は体内では2㎜以上には飛びません(2㎜にすべてのエネルギーを注ぎ込みます)。放射線はあらゆる方向に飛びますからその微粒子中心に半径2㎜の球を描けば、すべての電離はその球内の約100万個の細胞を傷つけます。それ以上の遠いところの細胞は傷つけません。1年間でどれほどの吸収線量がその球に与えられるかというと80ミリグレイ(グレイ:吸収線量の単位、ミリは1000分の1のこと)となります。とても大きな吸収線量です。ICRPは発がんは一つの異常DNAを持った細胞から始まるとしていますので、高い発がんの危険があります。これを肺組織(約1kg)を単位に、大部分の被曝を受けていない細胞を加えて、吸収線量を計算すると、これより5000分の1程度の過小評価となります。危険は計算の上で無いものとされます。このようにして被害者が認知されなくされてきました。国はこのようにして被害を無いものしてしまったのです。

 

■ 放射能の埃は黒い雨に
 原子雲はきのこの傘の部分と中心軸がまずできて少し遅れて水平に広がる雲ができます。ここにたくさんの放射能が着いています。この水平原子雲は直径35㎞程度に広がりこの雲の下に黒い雨が降りました。増田雨域あるいは大滝雨域と呼ばれる雨域です。黒い雨降雨地域にいた方は全員放射線の影響を受けているのです。