これまでの裁判の経過


 

●2018年7月9日第13回口頭弁論・3次訴訟

 

被告、従前からの主張繰り返す……新たに13人が追加提訴

 

 7月9日午後2時から第13回口頭弁論が広島地裁302号法廷で行われました。
 今回は当時の八幡村、河内村、観音村、加計町、安野村及び水内村の宇佐・久日市地区の原告の皆様の陳述書等を、提出できる範囲で提出しました。次回期日までに、後で述べる3次提訴の原告の皆様も含め、全原告について、陳述書等の証拠に加え主張書面を提出し、黒い雨被爆の実相を提出し切りたいと考えています。
 他方、被告らは、第11準備書面を提出し、宇田論文の詳細な分析や矢ヶ﨑先生の意見書に基づく原告らの総論主張に対する反論書面を提出しました。被告らは、宇田論文については、「具体的に、いつ頃、どの地点で、どのような方法で調査がされたのか等記載されておらず、現時点でこれを検証することは著しく困難であるから、その内容の信頼性にも疑義がないとはいえない」とか、「宇田雨域の正確性自体にも疑義がある」とか、さらには「いわゆる『黒い雨』が降った全域において、人体等への影響がみられるような現象が生じていたとまでは認められない」などとして、健康診断の特例という制度自体を否定するような主張をしています。また、矢ヶ﨑先生の意見書については、「いわゆる『黒い雨』に放射性降下物が含まれる場合の一般的な機序について述べるもので、…『黒い雨』に必ず放射性降下物が含まれていたということはできない」などとして、正面から反論せずに、従前からの被告らの主張を繰り返すのみです。被告らの反論を踏まえて、総論主張についても、今後、さらに主張・立証を追加したいと考えています。
 加えて、去る9月4日午前11時、新たに13人の「黒い雨」被爆者の皆様が、広島地裁に追加提訴しました。被爆時年齢は0歳から21歳で、被爆場所は、安野村8人、加計町1人、筒賀村2人、殿賀村1人、緑井村1人です。この3次提訴を含め、原告数は88人となりました。3次提訴についても、次回10月10日午前11時30分からの第14回期日において、従前の訴訟と併合して一緒に審理することになります。
 「黒い雨」訴訟を提起して、もうすぐ3年となります。いよいよ佳境に入ってくると思いますので、引き続き多くの皆様の傍聴をお願いします。

 

●2018年4月25日第12回口頭弁論

 

1.亀山村の原告8人の被爆状況を主張

 4月25日、第12回口頭弁論が行われました。春の人事異動で裁判体の構成が代わり、今後は高島義行裁判長、久保田寛也右陪席、岡村祐衣左陪席の下で裁判が進められることになりました。
今般提出した第17準備書面は、当時の亀山村で被爆された8人の原告の被爆状況等を主張するものです。期日では、亀山村の原告を代表して森園カズ子さんから意見陳述をして頂きました。森園さんは、綾西小学校から帰宅する途中で「黒い雨」が降ってきて被爆したこと、直後から下痢や発熱をしたこと、その後も甲状腺機能低下症、肝機能障害、白内障、骨粗鬆症など病気だらけの人生だったこと、地域では差別を恐れて「黒い雨」のことは他言無用にだったこと等が語られました。また、期日後の報告集会では、「手帳のために裁判をしているのではない。『黒い雨』被爆の事実を伝えたい」という強いメッセージを頂きました。

 

2.降雨地域拡大否定 ー 国の示す根拠に根拠なし

     他方、弁護団からは、今般提出した第18準備書面を踏まえて、意見陳述を行いました。矢ヶ﨑先生の意見書やこれまでの調査結果を踏まえれば、大雨地域以外の「黒い雨」降雨地域の被爆者が、被爆者援護の対象から除外されていることは不合理であること、国が降雨地域の拡大を否定する根拠とてして挙げている残留放射能調査の結果は、事後的に採取された土壌資料の測定結果にすぎず、当時の放射能環境を再現するものではなく、原爆投下後に行われた核実
験との区別もできないので、「黒い雨」降雨地域に放射性降下物が降ったことを否定する根拠となりえないこと、黒い雨専門家会議の気象シミュレーションは、砂漠での核実験のデータを多湿な広島に適用するという方法を誤ったもの
で、証拠価値はないことなどを指摘しました。
 次回の期日で、被告らから、これまで提出した原告らの総論主張に対する反論が提出されます。原告側は、引き続き、個々の原告の皆さんの具体的な被爆状況を主張・立証する書面を提出する予定です。引き続き多くの皆さまの傍聴をお願いします。

 

●2018年1月10日第11回口頭弁論

 

 前回期日の砂谷村で被爆された原告ら8名に続いて、本期日においては、水内村・上水内村で被爆した原告ら14名について、同村が黒い雨の降雨地域であること、陳述書を基にした原告らの被爆状況を主張しました。
 砂谷村と同様に「宇田論文」による黒い雨の降雨地域の確定には無理があることを踏まえ、「広島原爆戦災誌」第四巻、増田善信氏の調査や広島市が3万6614名に対して行ったアンケート調査、原告らの陳述書から認められる個々の原告の具体的な被爆状況から、水内村・上水内村が降雨地域であることを明らかにしました。水内村・上水内村の原告らの陳述からは、黒い雨の降雨や広島市内からの紙や木片などの降下物があった状況、また、原告らがそのような降雨や降下物のあった地域の作物や水を摂取したこと、急性症状の発症や様々な疾患を発症した原告がいらっしゃることが明らかとなっています。それにもかかわらず、「雨はなく被害もない」とする被告らの主張の非科学的というほかありません。
 次回の期日においては、引き続き、佐伯郡八幡村・河内村・観音村・五日市町、安佐郡亀山村、山県郡安野村と順次、個々の原告らの具体的な被爆状況を主張する他、昨年琉球大学名誉教授の矢ヶ崎克馬先生にご作成いただいた意見書を基にした準備書面を提出する予定です。同意見書は、宇田雨域を基にした降雨地域の確定、内部被曝を無視した現行の認定のあり方が誤っていることを明らかにするものとなっています。

 

●2017年10月11日第10回口頭弁論

 

1.宇田論文についての主張

 黒い雨降雨地域を楕円形の「大雨地域」と「小雨地域」に分け、前者を「健康診断特例地域」とする現行制度の根拠となった「宇田論文」(1953年)について、次のように論述しました。
 宇田論文は、気象の専門家である宇田氏などが、出来るだけ多くの原爆被害の当事者に会って話を聴き、当日の地域の状況を再現しようとする科学論文です。
 体験の聴き取り記録は、被爆直後の唯一の証言として貴重なもので内容は信用できるものです。黒い雨の降雨状況の他、それが人体・魚類・動植物に及ぼした影響(症状・状況)を示すものとして貴重なものと言えます。
 しかし、調査はごく短期間にわずか6人で行われたものであり、当初、旧広島市内を調査範囲としていましたが、市外に降雨の可能性があったことから急きょ調査範囲が広げられました。そうしたことから、旧広島市内は満遍なく多数の聴き取りがされているのに比べ、市外の調査はごく限定されたものとなっています。メモとして残されている170件弱の聴き取り記録のほとんどは旧広島市内のもので、市外の聴き取り記録はごく少数に限られています。原告らの居住している地域については、その多くが調査対象にもなっていません。
 こうした理由により、宇田氏らの行った調査から「大雨地域」と「小雨地域」を確定したり、黒い雨降雨地域を確定したりすることは不可能です。したがって、「宇田論文」を根拠としている現行制度は被害の実態を反映していない非科学的なものと指摘せざるをえません。

 

2.砂谷村で被爆した8人

 宇田氏の調査には、砂谷村の住民の一人による「雨は降っていない、紙片などたくさん降ってきた」との供述があります。しかし、広島県・市が原爆手帳申請などの際に裏付けとして使用している「広島原爆戦災誌」第四巻では、砂谷村に雨が降ったと記載されている他、増田善信氏の調査や広島市が3万6614人に対して行ったアンケート調査でも、砂谷村全域に雨が降ったことは明白です。
 そして、8人の原告が被爆当時下痢・鼻血・脱毛などで苦しんだ体験や、魚類の斃死などの目撃証言、さらに、その後長期にわたり種々の疾病に苦しんだことなどから、「雨はなく被害もない」とする被告らの主張の非科学性を指摘することができます。

 

3.科学的根拠とは何か

 国は、放射能物質がある根拠を示せと言っていますが、当時、放射能測定器はもちろん雨量計や観測機器すら整備されていませんでした。また、今になって、当時の放射性物質を探せと言われても、度重なる核実験で汚染されていて、原爆由来の放射性物質の判別はできません。
 昭和20年10月になって疎開先から高須の自宅に帰ってきた宇田氏の小学校6年生の次男は、まもなく髪の毛が抜けました。雨戸にこびりついていた泥から非常に高い放射能が出ていていたことから放射線被曝したと判明しました。宇田氏自身も白血球が少なくなり疲れやすく、少し歩くと息切れがする被爆者でした。このような自らの体験も手伝って、宇田氏自身、「黒い雨」の解明に積極的でした。宇田氏は、多くの原爆被害の当事者に会って話を聴き、当日の状況を再現することで、被爆の実相に近づこうと努力しました。
 今私たちができることは、宇田氏のように、現在生きている黒い雨被爆者である原告の皆さんから、当時の状況・病歴などを忠実に聴きとり、それを科学の目で見て、被爆の実相を明らかにすることだと思います。

 

 

2017年4月17日第8回口頭弁論

 

1 原告らの求釈明に 対する被告らの回答

 

 第7回期日及びその後に提出した求釈明補充書で、原告らは被告らに対して、以下の点について明らかにするよう求めました。
①被爆者援護法1条3号の解釈について、3号被爆広島地裁判決と異なる解釈論を採る論拠、特に私的諮問機関に過ぎない基本懇報告書が殊更重視される積極的な論拠
②内部被曝による放射線の人体影響について、被告が認めないのであればその理由
③第1種健康診断特例区域の指定の具体的な判断基準
④発言者個人名を特定した基本懇速記録と基本懇で配布された資料一切の開示
 ところが、被告らが今回期日に提出した第6準備書面では、上記①ないし③について、いずれも既に被告らが提出している準備書面で主張したとおりであり、原告らの釈明に回答する必要性を認めないとしました。また、上記④についても、発言者の個人名については、本件争点との関連性が認められず開示の必要性を認めない、資料についても、本件争点との関連性を明らかにすれば検討するというものでした。
 被告らの回答は、原告らの主張に正面から答えず、争点を曖昧にするもので、結局原告らの追及から逃げようとしていると言わざるを得ません。また、被告らの態度も問題ですが、原告らと被告らの間に立つ裁判所も、本来であれば、争点に対する双方当事者の主張が咬み合ったものになるよう、積極的に争点整理をして足らない主張・立証を指摘してこれらをするように促すべきものですが、被告らの態度を追認してしまっており、問題です。
 弁護団としては、今後、専門家の先生方の協力を得ながら、更に上記争点について、主張・立証を補充し、被告らを追い詰め、裁判所を説得する覚悟です。

 

2 第1種健康診断受診者証の交付が義務付けられる根拠

 

 原告らからは、大雨地域に限定されている現行の政令が違法無効と判断された場合に、裁判所が、被告らに対し、大雨地域外にいた原告らに健康診断受診者証の交付をするよう義務付けることができる根拠について、第8準備書面で主張しました。法律論ですので、詳細は支援する会のHPを御覧下さい。

 

 

 

2017年2月13日第7回口頭弁論

 

二月一三日、第七回口頭弁論がひらかれました。一昨年十一月の提訴から一年三ケ月、原告・被告双方の主張が明らかになってきました。

今回の法廷では被告(国)の主張(第五準備書面)について原告から釈明を求め(求釈明)その内容を説明しました。

閉廷後の「報告会」で竹森弁護団事務局長が被告(国)に求めた釈明の内容を詳しく説明しました。

 

原告団副団長の松本さんから提訴の準備中に三名が被爆者手帳の取得が出来たこと、新たに十一名が原告に加わることが報告されました。(原告は七五名)

 

次回の口頭弁論は4月17日です。弁論は11:20から302号で行われます。傍聴参加をよろしくお願いします。

 


2016年11月21日第6回口頭弁論

  11月21日(月)11時20分~広島地裁で開かれました。原告や傍聴者80名で法廷は一杯になりました。

竹森弁護士が意見陳述に立ち、原告は黒い雨に合い放射能の影響下にあったので3号被爆者に該当する。被爆者援護法の趣旨に沿っているし、第1種健康診断特例区域を広げるべきだと主張した。

報告会では、提訴して1年になるが、6回の準備書面をだし、こちらの主張、相手の反論を出しました。何度も弁護団で学習会し、議論しています。増田気象学者、矢ヶ崎克馬先生や広大の大瀧先生など来てもらって、話を聞き学習を深めました。まじめで熱心な弁護団に大きな拍手が起きました。

次回の裁判は、

2017年2月13日です。


原告個々に聴き取り
原告個々に聴き取り

9月7日(水)第5回口頭弁論にむけて

           弁護士 端野 真

 

 6月20日の第4回口頭弁論には端野真弁護士が立ち、原告第3準備書面の被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能を受けるような事情の下にあった者」の解釈のあり方について述べました。
 第3準備書面では、被爆者援護法の前身となった原爆医療法制定の背景、制定に至る経緯、制定当時の科学的知見といった立法事実を踏まえた上で、被爆者援護法1条3号の解釈について論じています。3号被爆者の解釈について判断した裁判例として、黒い雨訴訟弁護団の弁護士が代理人となった2009年3月25日広島地裁判決がありますが、この判決を基礎として論じています。そして弁護団の考えとして、3号被爆者にあたるか否かは、最新の科学的知見を考慮した上で、個々の申請者について、身体に放射線の影響を受けたことを否定できない事情が存するか否かという観点から判断されるべきであると述べています。
 今後は、弁護団としては、原告の方々について、身体に放射線の影響を受けたことを否定できない事情があったということを具体的に主張・立証していくことになります。今後ともご支援をよろしくお願いします。

陳述書作成作業進む

 原告、個々に聴き取り

 原告の被爆体験やその後の健康状況などを弁護士が直接聴き取り、陳述書としてまとめる作業が、7月末から8月に行われました。被爆地域ごとに原告に集まってもらう場が、安芸太田町で2会場、湯来町で2会場、可部町綾ケ谷で1会場が設定されました。1人約1時間以内の予定で、弁護士が手帳申請書類などの資料をもとに質問し、それに原告が答える形で進められました。その他の原告には、自宅へ訪問したりして聴き取りが行われました。
 佐伯区では、原告は5人で、思うように外出できない人もいるので高東さんの運転する車で回りました。足立弁護士は、「訪問すれば生活環境も分かるし、当時の様子やその後の生活などがよく分かり、つい時間も長くなってしまいますがとても有意義でした」と語っています。

 

報告集会
報告集会

 

●2016年6月20日 第4回口頭弁論

 

 620日、広島地裁(末永雅之裁判長)で開かれました。304号法廷は傍聴者で満席になりました。

 口頭弁論には端野真弁護士が立ち、原告第3準備書面の被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能を受けるような事情の下にあった者」の解釈のあり方について述べました。

 前身である原爆医療法にさかのぼり、原爆投下後10年、あの第5福竜丸事故があり被爆者の健康管理や救援を求める動きが強まっていました。原爆医療法は、被爆者に対する健康診断及び原爆障害者に対する医療の給付、被爆者への健康管理を機軸に据えた内容のものでした。当時、被爆者の健康状態が医師の綿密な観察指導を要する状態であったこと、原爆放射能による被害者の全貌が当時の医学によっては明らかにされていないことが考慮された結果、被爆者に対し健康管理を行うことに、被爆者の不安を一掃し、後障害に対する適切な予防・治療を実現するという重要な意義がありました。

 厚生省は、3号被爆者について、当初政令で具体的に定める予定でしたが、検討を経た結果、抽象的な規定となりました。これは、政令において例示することを可能にするだけの科学的な知見がなかったことや、後年における科学的な知見の進展を踏まえた柔軟な対応を可能にする必要があると考慮されたと考えられます。

 被爆者援護法1条3号に該当するか否かは、最新の科学的見地を考慮した上で、個々の申請者について、身体に放射能の影響を受けたことを否定できない事情が存するか否かという観点から、判断されるべきであると端野真弁護士は結びました。

 原告側が開いた報告集会には約80人が参加しました。高野正明原告団長は、新たに6人が追加提訴を決意したと報告し、「原告は、さらに増えるので引き続きご支援をお願いします」と訴えました。

 

●2016年4月18日 第3回口頭弁論 広島地裁にて

 

 4月18日午前11時から広島地裁304号法廷で第3回口頭弁論期日が開催されました。
 前回期日における原告らの釈明を踏まえて,広島県・市と厚生労働大臣(以下,被告ら)から連名で提出された第2準備書面等が陳述されました。その要旨は以下のとおりです。
 ①被爆者援護法1条3号「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情のもとにあった」といえるためには,特定の被爆態様によって現実に健康被害が発生しうる場合でなければならず,現在の科学的知見では,100ミリシーベルトを下回るような放射線に被曝した場合については,それによって健康被害が発症し得るか否かも定かではないのだから,原告らが「黒い雨」を浴びるなどしたとしても健康被害を惹起し得ると合理的に認められる程度の放射線に被曝しているといえるだけの具体的根拠がない。②健康診断特例区域の指定を政令に委ねたのは,それが高度の専門技術的かつ政策的判断を要する事項であり,判断能力を有する行政機関に一定の裁量を認めた趣旨であり,第一種健康診断特例区域として指定されないことにより不利益があったとしても,それは事実上の不利益にすぎず,地域指定後の各調査及び検討では,「黒い雨」が降ったとされる地域に高濃度の放射性物質(核分裂生成物)が降下したとの事実が認められなかったのだから指定に問題はないというものです。
 今後は,3号の解釈,「黒い雨」降雨域の範囲と放射性降下物により原告らが被曝したこと等を具体的に主張・立証していくことになります。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。

 

 

「黒い雨」訴訟は本格論争へ……支援する会事務局長 高東征二

 

 昨年の11月4日、64名の原告は、「第一種健康診断受診者」の交付と、「被爆者健康手帳」の交付を求め提訴に踏み切った。なぜ二段構えなのか。

 4月18日の第3回口頭弁論が終わった後、法廷を出て大きなテーブルを囲んで、裁判長・弁護士・原告が話し合う「進行協議」が開かれた。裁判長は、この二つの交付を切り離して別々にしたらどうかと主張。その意図は分からないが、私には爆心地からの距離を基準とする直接被爆のスケールを使おうとしているのかとも思えた。

 原告集会で、竹森弁護団事務局長は、提訴で被告の国が主張する「第二準備書面」の紹介をした。原爆手帳の交付の要件となっている被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情のもとにあった」をどう考えるかが問題となっている。援護法1条3号は、「直爆」の1号、「入市被爆」の2号に該当しない、「特殊な犠牲」による被爆者を救護対象にしている。

 放射線被曝によって健康被害が発症するか否か定かでない場合、100ミリシーベルトを下回る場合は発症せず「特別の犠牲」とは言えないなど、耳をふさぎたくなるような主張が次々と出てくる。

 3号被爆者訴訟は、7年前、輝かしい全面勝訴の判決がある。弁護団長は今回と同じ広島敦隆氏。琉球大名誉教授の矢ヶ崎克馬氏が、法廷でプロジェクターを使い、内部被曝のメカニズムを説明された。救護所で10人以上の被爆者に触れたか否でなく、放射線の影響を受ける環境下に一定時間いたかどうかが問われなくてはならないとの説明だった。

 「黒い雨」は、内部被曝の問題です。外部被爆の延長ではない。論破できる科学者と内部被曝で苦しんでこられた原告の赤裸々な訴えが勝訴への道を開いてくれます。「黒い雨」で苦しみ、自己責任として死んでいった多くの被爆者を思うとき、今、生きている我々が力を発揮する時です。

                     (文責 高東征二) 

 

●2016年2月15日 第2回口頭弁論

 

 弁護団から3点について求釈明しました。

①被爆者健康手帳や第1種健康診断受診者証の交付申請の際の資料(申請書、聴取書、地図等)を速やかに証拠として提出されたい。

②被告らは被爆者援護法1条3号を「人体に健康障害を発症し得る相当程度の放射線被曝をしたような事情」と限定解釈しているが、その理由を明らかにされたい。

③「黒い雨」による健康障害について、昭和28年当時から言及されていたにもかかわらず、強雨地域のみが健康診断特例区域と指定された経緯・理由、さらには健康診断特例措置の制度趣旨・制定経緯について明らかにされたい。

 

●2015年12月9日 第1回口頭弁論

 

 高野正明原告団長と廣島敦隆弁護団長が意見陳述し、原告が高齢なので裁判を迅速に進行するように要望しました。