被爆の実相を明らかに

 

 

          弁護士 池上 忍

 

 

「黒い雨」の裁判と同様,国は被爆者援護法をきちんと守れと訴え続けている裁判に,「原爆症」認定訴訟があります。原爆症認定制度とは,被爆者手帳をもっている人が放射線が影響して病気になった場合に,国から援助を受ける制度ですが,つい10年前までは,その認定率は,わずか0.8パーセントで,行政に申請しても申請しても却下されるという状況が続きました。そこで,全国各地で一斉に集団提訴をしたのですが,国の言い分は,原告らがかかっている病気が放射線によって発症しているという科学的な証明はない,だから援護の必要などないという一点張りのものでした。これは,放射線が人体に与える影響についてはいまだ未解明な部分が多いので,そのことを逆手に取って,援護の切り捨てを行おうとするものです。これに対し,原告たちは,被爆の実態を明らかにして科学的に未解明な部分を埋め尽くそう,そのために,あの日あのとき広島で何が起こったのか,その後原告たち被爆者はどんな病に冒され続けたが,どのような人生を歩んできたのかを,これら被爆の実相を,徹底して詳らかにしようとしてきました。その結果,連戦連勝に結びつきました。

 

「黒い雨」の裁判も同様な経過を辿ることは間違いありません。私達も,裁判で,国の科学の誤用を曝き,事実をひとつひとつ積み重ねて被爆の実相を明らかにすることが是非とも必要です。

 

松井一實広島市長は,今年も,8・6の広島宣言で,国に対し黒い雨の区域拡大を求めると力強く宣言し,世界に向かって約束をしました。核廃絶を目指す世界中の人々が注目し続けてきた広島宣言です。広島宣言の価値を落とさないためにも,広島市にこの宣言を突きつけ,そのうち広島市を私達の側に巻き込んでいく,そういう展開となるよう,弁護団は皆さんと一緒に奮闘します。